車椅子移動とガラスの壁

障害児福祉

るいの夫です。あー、やっぱりモヤモヤするので、大きな独り言です。

生まれてこの方、フルサービスキャリアからオンボロLCCまで、のべつくまなく50回くらいは飛行機にお世話になっている次女。はじめて「車椅子ユーザである」という理由で、搭乗を断られてしまった。

あれも、これも、ぜんぶおじゃん

今週末、東京で開かれているキッズフェスタという子ども向けの福祉機器展に参加する予定にしていた。マニラからは片道4時間、なんとか週末一泊二日も可能である。リフトとか、座位保持装置とか、リハビリ用品いろいろ見たり触ったり座ったりできる、年に一度の貴重な機会。インド赴任やコロナもあって、私達家族にとってはこういうイベントは実に5年ぶり2回目で、自ずと気合も入る。

出張や大きな会議の準備なども目処が立ったので、出発3日前に滑り込みで予約。久々にお会いする人、初めてお会いする人、いろいろ準備していただいて楽しみにしていたのだが、まぁ全部おじゃんである。妻にも会えない。マニラで代わり映えのしない週末を過ごしていると、余計にやるせなさが募る。

電話口では、

航空会社さん
航空会社さん

「このような直前のご連絡のケースはいままでなく、対応が難しく・・・」

「搭乗時に時間を要して、定時運行に影響し、他の乗客の方のご迷惑になる可能性が・・・」

「飛行中に万が一の事態が発生した際に、お客様や他の乗客の皆様の安全が確保できない恐れが・・・」

と、なるべく搭乗を諦めてもらいたいという意図が見え隠れするようだった。一つ一つ確認していくと、この規則が問題になっていることがわかった。

「車椅子での移動のお手伝いを必要とするお客様のご予約は、各フライトにつき2名様までとさせていただいております。ご希望のフライトで人数の上限に達しているかどうかをご確認いただくため、フライトを予約される際、車椅子でのお手伝いが必要な場合は、その旨を当社までお知らせください。」

https://www.jetstar.com/jp/ja/help/articles/wheelchairs-mobility-aids-and-reduced-mobility

次女は「車椅子でのお手伝いが必要な場合」に当たるのか?

次女の場合は私が付ききりで介助するので、特に航空会社の手を煩わせることはないはずだ。「車椅子でのお手伝いが必要な場合」には該当しないので、本来は連絡しなくてもよいようにも読める。とはいえ、車椅子を「利用する」のは事実なので、念の為、事前連絡することにした。今思えば、それが蛇足だったのかもしれない。

次女自身の折りたたみバギー型車椅子を預け入れたいこと、搭乗から降機まで一切手伝いは必要ないこと、機内では介護者が抱いて移動するため、一般の赤ん坊と同様の扱いでよいこと、などを伝えた。すると、数時間して折返しの電話があり、「利用予定便の車椅子乗客数がすでに2名に達しているため、搭乗を受け入れられないかもしれない」というのである。

そもそも、「車椅子でのお手伝いが必要な場合」という表現は、あいまいだ。次女は本当にこれに該当するのだろうか。たしかに車椅子ユーザであるし、付添である私の手伝いは必要だが、別に誰か赤の他人に車椅子を押してもらうとか、特別なタラップを準備してもらうとか、ことさら航空会社や周囲の乗客にご迷惑をおかけする予定はない

要は、だっこの赤ん坊と同じである。赤ん坊の飛行機の予約の際に、「○日前までに予約を」とか「万が一の際に責任がとれないので」とか「搭乗の際に他のお客様にご迷惑になる可能性が」とか言うだろうか。

もちろん、車椅子を利用し、介助を要する乗客の利用人数を2人までに制限していることは、障害者からすれば望ましくない。でも、航空会社として、安全の確保や、人件費との折り合いから、一定の線引きをするという立場も理解できるし、それを明記しているのも良いと思う。

車椅子ユーザであるというだけで飛行機に乗れない

ただ、今回の場合、航空会社からの手伝いは必要ないにもかかわらず、「車椅子を利用している」という理由で、搭乗を断られてしまった。これって合理的だろうか。手伝いはいらないと伝えているのに、手伝いの人員が手配できないことを理由に、搭乗をお断りされてしまう・・・、う〜ん。

電話口で対応頂いた方は一生懸命で、現場と規則の板挟みになりながら、心を砕いていただいているのがよくわかり心苦しかったが、最終回答は搭乗予定時刻の12時間前だった。運行を担当する機長さんとも相談した上で、やはり車椅子利用者の人数制限を超えるので搭乗をお断りする、という結論であった。代替案として別の空港への便への変更(と、その空港からの交通費)を提案いただいた。お忙しい中、真剣に検討いただいてありがたいと思う。でも、一泊二日の旅程で代替空港から都内まで4時間を往復するのは時間的に厳しく、妻とも相談して、今回は諦めることにした。もちろん、他社便は軒並み満席で値段もバカ高く、他の選択肢はなくなっていた。

もちろん、そもそもお前がもっと早く手配すればいいのにとか、本人や他のお客さんの安全が大事とか、それはごもっともである。ぐうの音も出ない。でも、私が一人で移動するなら、こういうことは言われないのだ。格安航空会社だって使いたい放題、直前予約だってし放題である。車椅子にのっているというだけで、かくも見えないガラスの壁があるのは、障害は社会の側にある、ということを見せつけていると思う。こういうのが少しずつでも減ればいいなと思って大きな独り言をつぶやいてみた。

繰り返しになるが、今回の件で一番もやもやしているのは、航空会社からの介助はいらないのに、車椅子ユーザという理由だけで、搭乗人数の制限を当てはめられてしまったことだ。乗客が150人くらいいるなかで、2人は狭き門である。

障害者の足となる車椅子が、かえって足かせになるなんて、悲しい。どうにかならないものか。

まとめ

  • 航空会社さんに、車椅子ユーザであるという理由だけで、搭乗を断るのではなく、介護者の有無や介助の要否を個別に検討してより柔軟に検討してもらえないでしょうか。
  • 当事者のみなさんに、車椅子での飛行機移動に関するノウハウって、どこかにまとまってますか?
  • メディアのみなさんに、このテーマ、プロのお力で突っ込んで取材してもらえませんか。航空会社の障害者担当窓口は日中しか開いてないので、働いていると電話するのも一苦労・・・。
  • 広く社会のみなさんに、こんな感じで車椅子で出かけるにはガラスの壁がそこここにあります。生暖かい目で見守ってくださるとうれしいです。情けは人の為ならずで、自分が弱い立場になったときに、社会の側の障害が少ない方がいいと思いませんか。
  • 自分に移動の準備はお早めに。
Masahiro

4児の父、医師。脳性麻痺の次女とマニラで二人暮らし。コーヒーは浅煎り派。10年ほど信州で家庭医療専門医として地域医療に従事したあと、国連に転職。パンデミックのあおりで二拠点生活が長引き、仕事と家庭生活の両立に延々と頭を捻って妻に呆れられている。ライフワークは娘の「親なきあと」を少しでも豊かで穏やかなものにすること。

Masahiroをフォローする
タイトルとURLをコピーしました